福岡地方裁判所小倉支部 昭和58年(ワ)61号 判決 1984年2月16日
原告
株式会社オリエントファイナンス
右代表者
阿部喜夫
右訴訟代理人
竹下榮作
被告
岡島観一
右訴訟代理人
住田定夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金二七九万六、九五七円と、これに対する昭和五七年七月二六日から支払ずみまで、日歩八銭の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 1につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、訴外技新建設工業こと半杭定雄(以下「訴外人」という。)との間で、昭和五五年一一月二四日、被告を注文主、訴外人を請負人として、代金三六〇万円の約定で増改築工事請負契約を締結した。
2 原告は、同日、被告との間で、被告の訴外人に対する右代金債務の内金三〇〇万円を次の約定で被告に代つて訴外人に弁済することを約した。
(一) 取扱手数料 金一八一万四、四〇〇円
(二) 被告は原告に対し、原告が訴外人に対して弁済した代金債務及び右取扱手数料を次のとおり分割して支払う。
昭和五五年一二月二七日 金一〇万五、七〇〇円
昭和五六年一月から昭和六二年一一月まで
毎月二七日 金四万八、九〇〇円宛(但し、七月、一二月は金五万円加算)
(三) 被告が右支払を怠り、原告が二〇日以上の期間を定めた書面で催告しても支払をしないときは、被告は期限の利益を失う。
(四) 遅延損害金 日歩八銭
3 原告は、右立替払契約に基づき、昭和五五年一二月二〇日、訴外人に対し、右請負代金の内金三〇〇万円を立替払した。
4 被告は、昭和五五年一二月分から昭和五六年一〇月分までの合計金六四万四、七〇〇円の支払をなしたが、同年一一月分から昭和五七年六月分までの支払をしないので、原告は被告に対し、同年七月五日到達の書面で右未払金を右書面到達後二〇日間内に支払うよう催告したが、被告はその支払をしないので同年七月二五日の経過をもつて期限の利益を失つた。
5 よつて、原告は被告に対し、右立替金及び取扱手数料残金四一六万九、七〇〇円から、戻し利息の計算方法である七八分法を適用して、期限の利益喪失の昭和五七年七月から昭和六二年一一月までの期限未到来の手数料金一三七万二、七四三円を控除した金二七九万六、九五七円と、これに対する期限の利益喪失後の昭和五七年七月二六日から支払ずみまで約定の日歩八銭の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3の事実は不知。
3 同4のうち、被告の支払のないこと及び原告の催告は認め、その余は争う。
4 同5は争う。
三 抗弁
1 原、被告間の本件立替払契約には、立替払の条件として本契約成立後被告が原告に立替依頼書を交付した後に原告が訴外人に立替払するものとする旨の特約が存するところ、右立替払の条件は立替払の停止条件であり、被告は原告に立替依頼をしていないにもかかわらず、これに反してなされた原告の本件立替払に基づく本件立替金請求は、その条件を欠き、許されない。
2 訴外人の被告に対する本件増改築工事の完成と被告の原告に対する本件立替金の支払債務とは、同時履行の関係にあるところ、訴外人は右工事の着工もしていないので、訴外人が右義務を履行するまで被告は本件立替金の支払を拒絶するものである。なお、原、被告間の本件立替払契約には、被告は原告に対し、本件請負契約上の抗弁を主張できない旨の抗弁権切断条項が存するが、公序良俗に反し無効である。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。
2 同2は争う。但し、訴外人が本件増改築工事を完成していないことは認める。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二<証拠>によれば、請求原因3の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
三被告は抗弁1を主張するので、以下検討する。
<証拠>によれば、原、被告間の本件立替払契約には、立替払の条件として本件契約成立後被告が原告に立替依頼書を交付した後に原告が訴外人に立替払するものとする旨の特約の存すること及び原告は被告に対し、本件請負契約上の抗弁を主張できない旨の抗弁権切断条項が存することが認められる。
原告が甲第三号証を提出したことにより、原告は被告作成名義の工事完了(商品)引渡連絡書兼立替依頼書を受領していることが認められるけれども、本件増改築工事が完成していないことは当事者間に争いのないところ、被告人本人尋問の結果によれば、訴外人は本件増改築工事の着工もしていないことから、被告は、甲第三号証を作成する理由もなく、訴外人が、被告に無断で、訴外人の印章を冒用して工事完了(商品)引渡連絡書兼立替依頼書(甲第三号証)の被告作成名義の部分を偽造して原告に交付したものと認められ、右認定に反する証拠はない〔なお、被告は、甲第三号証のうち、被告作成名義の部分の成立を認めているが、書証の成立の真正についての自白は裁判所を拘束するものではない(最高裁判所昭和五二年四月一五日第二小法廷判決)。〕。
右事実によれば、立替払の条件の特約は、抗弁権切断条項と総合して考慮すると、被告の訴外人に対する本件請負契約上の抗弁権を保護する趣旨であり、しかし、一旦、被告が立替依頼をしたときは右抗弁権をもつて原告の立替金請求の拒絶を許さないものであるから、被告の立替依頼は原告の立替金請求権の停止条件と解するのが相当であるところ、本件においては、被告の立替依頼の事実はないから、原告の本件立替金請求権は効力を生じていないというべきである。
四以上によれば、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (渡邊了造)